平成16年5月の大気汚染防止法の法改正によりVOC:揮発性有機化合物(以下VOCという)の排出規制が盛り込まれ、平成18年4月1日から本格的に施行されます。
この法規制は、我が国の環境法体系の中で初めて「法規制」と「自主的取組」の組み合わせによるいわゆる「ベストミックス」の考え方を採用したもので、VOCの大気排出量を平成12年度を基準に平成22年度までに30%程度の排出量の削減を目標としております。
「自主的取組」は、企業の自主性を尊重し、一律ではなく、費用対効果や自由度の高い対策が取れるように緩やかな枠組みとなっておりますが、VOCの排出量の削減目標値である30%が達成されない場合には、平成23年度から「法規制」と「自主的取組」の配分に関して規制の見直しが行われることになっており、車体整備業界においてもVOCの排出量の削減目標値である30%を達成するように、各事業者における個々の取組が必要となっております。
なお、本マニュアルの作成にあたり、(社)日本自動車工業会及び(社)日本塗料工業会からのご協力とご指導の下に本マニュアルが作成されております。
平成16年5月26日に大気汚染防止法が改正公布され、平成18年4月1日から施行されます。これによると、平成12年度を基準に平成22年度までに光化学オキシダントの生成要因の一つであるVOCの大気排出量を30%削減することが目標として掲げられております。
これまでの大気汚染防止法では、ばい煙(硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじんなど)、粉じん、特定物質、自動車排ガスの規制が行われてきましたが、浮遊粒子状物質(SPM)および光化学オキシダント濃度の環境基準達成率が大都市圏を中心に低い水準に留まっており、光化学オキシダント注意報、警報の発令頻度の改善が求められていました。この事態を改善するためSPMや光化学オキシダントの生成要因の一つとされるVOCの排出抑制を図ることとなっています。
改正大気汚染防止法において、VOCの定義は「大気中に排出され、又は飛散したときに気体である揮発性有機化合物(浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質を除く)。」であり、VOCは主に自動車の塗料などを含む全分野に用いられています。
VOCの排出抑制を目指すとした改正大気汚染防止法は、次のような従来にない特徴を有しています。
①「法規制」と「自主的取組」の組み合わせによるいわゆる「ベストミックス」の考え方を初めて採用したこと。
②有害大気汚染物質(平成8年改正)とは異なり、人への直接の有害性ではなく、SPMや光化学オキシダントなどの間接リスクの改善にあること。
今回の法整備にあたって、環境基本法に理念がうたわれたシビルミニマムの考え方(地方自治体が住民のために備えなければならない、最低限の生活環境基準)を採用し、法規制による強制的規制を最小限にとどめ、自主的な削減の取組を組み合わせた効果的な排出抑制を図ることとしています。この「ベストミックス」の考え方に基づく、自主的な削減努力を尊重しつつ、規制対象は1施設あたりのVOCの排出量が多く、大気への影響も大きい施設とされています。規制対象外の施設からのVOCの排出に関しては、事業者の自主的取組を尊重し、各事業者が最適とする費用対効果の高い方法を実施することを期待しております。
規制対象となる施設については、今回の法規制が、自主的取組を最大限に尊重した上での限定的なものであることを踏まえ、法規制を中心にVOCの排出抑制を図っている欧米等の対象施設に比して相当大規模な施設が対象となるよう設定されています。このため、施設の規模を外形的に判断するための指標を定め、一定規模以上の施設のみを規制対象としています。
6つの業種分類において主に塗装ブースで、かつ、外形裾切り基準値(法規制の対象となる施設の規模)以上の規模を有する施設であります。
改正大気汚染防止法はベストミックスにより全体としてVOCの排出量を抑制するという考えに基づいた規制であります。そのため、既に排出規制を行っているEU等の知見を参考にしつつ、施設ごとの排出抑制技術の採用実態を踏まえて、現時点で適用可能な技術を幅広く採用する方向で、各施設の種類・規模ごとに排出口での濃度を基準として、排出基準値が環境省令で定められました。対象施設の所有者は対象施設を設置する際に都道府県知事に届け出るとともに、排出基準を遵守しなければならないとされています。
なお、規制対象外の施設については、業界団体及び事業者が費用対効果を考慮した上で自主的な対策を行うことになっています。規制対象となる施設の類型、裾切り基準値は以下のとおりです。
規制対象となる施設の類型、裾切り基準及び濃度規制値
VOC排出施設 |
規模要件 |
排出基準 |
|
塗装施設(吹付塗装に限る。) |
排風機の能力が100,000m3/時以上のもの |
自動車製造の用に供する施設(吹付塗装に限る。) |
既設
700ppmC 新設 400ppmC |
その他の塗装施設(吹付塗装に限る。) |
700ppmC |
||
塗装の用に供する乾燥施設 (吹付塗装及び電着塗装に係るものを除く。) |
送風機の送風能力が10,000m3/時以上のもの |
600ppmC |
|
接着の用に供する乾燥施設(木材・木製品の製造の用に供する施設及び下欄に掲げる施設を除く。) |
送風機の送風能力が15,000m3/時以上のもの |
1,400ppmC |
|
印刷回路用銅張積層板、合成樹脂ラミネート容器包装、粘着テープ・粘着シート又は剥離紙 の製造における接着の用に供する乾燥施設 |
送風機の送風能力が5,000m3/時以上のもの |
1,400ppmC |
|
グラビア印刷の用に供する乾燥施設 |
送風機の送風能力が27,000m3/時以上のもの |
700ppmC |
|
オフセット輪転印刷の用に供する乾燥施設 |
送風機の送風能力が7,000m3/時以上のもの |
400ppmC |
|
化学製品製造の用に供する乾燥施設 |
送風機の送風能力が3,000m3/時以上のもの |
600ppmC |
|
工業製品の洗浄施設(洗浄の用に供する乾燥施設を含む。) |
洗浄剤が空気に接する面の面積が5㎡以上のもの |
400ppmC |
|
ガソリン、原油、ナフサその他の温度37.8度において蒸気圧が20キロパスカルを超え る揮発性有機化合物の貯蔵タンク(密閉式及び浮屋根式(内部浮屋根式を含む。)のものを除く。) |
1,000kl以上のもの(ただし、既設の貯蔵タンクは、容量が2,000kl以上のものについて排出基準を適用する。) |
60,000ppmC |
注)「送風機の送風能力」が規模の指標となっている施設で、送風機がない場合は、排風機の排風能力を規模の指標とする。
注)「乾燥施設」には、「焼付施設」も含まれる。
改正大気汚染防止法により、規制対象となる排出施設を有する設置者は、VOC濃度等を測定し、その結果を記録することとなっており、VOC対象施設における測定の頻度は、年2回以上とされています。
環境省告示では、VOC測定法の種類、装置、試薬、測定の手順が詳細に記載されており、測定方法は、FID(水素イオン化検出器)、あるいはND-IR(非分散型赤外線吸光光度法)によるものとされ、測定結果は炭素数換算濃度(ppmC)で表示することとなっています。
VOCの排出削減量の目標を30%とした根拠は、環境省の推計より固定排出源からのVOC排出量を30%程度削減することができれば、
①自動車NOx・PM法対策地域におけるSPMの環境基準の達成率が約93%に改善されると見込まれること、
②光化学オキシダント注意報レベルを超えない測定局数の割合が約9割まで上昇すると見込まれること、
が挙げられ、相当程度のSPMおよび光化学オキシダントによる大気汚染の改善が図られると評価されたことにあります。この目標達成期限は、自動車NOx・PM法の基本方針において平成22年度までに浮遊粒子状物質の環境基準をおおむね達成することが定められており、これに合わせて平成22年度とされています。
事業所からVOCの環境への排出を抑制するために先ず必要なことは、はじめから高価なVOC除去設備を設置するのではなく、VOCを取り扱う工程を見直し既存の排出量の削減を図ること(工程内対策)が必要です。そして、これらの工夫ではとても削減にはつながらない場合に、初めて除去設備の利用を考えることになります。
(1)工程内対策
工程内対策を検討する上で最初に必要な検討は、工程自体と排出源の実態の把握であります。
(2)塗装・ブースの設置
ブースとは、防火、作業者の健康対策、塗膜品質確保等のために、塗装によって発生する塗装ミスト及び溶剤として使用されているVOCを強制排気することを主な目的として設置する装置のことです。
低VOC塗料とは、顔料等の不揮発分以外に含まれる成分のうち、VOC成分が非常に少ない、またはVOC成分を含まない塗料のことをいいます。
低VOC塗料の種類及び特徴
種類 |
長所 |
備考 |
水性塗料 |
・水による希釈が可能 ・湿った素地に塗布するこ とが可能 ・臭気が少ない |
・塗装時の温湿度の調整が 必要 |
ハイソリッド型塗料 |
・設備に大幅な変更が必要 ない |
・樹脂を低分子化するため 塗膜性能に注意が必要 ・塗装作業性に配慮が必要 |
注)水性塗料とは、水が塗料又は希釈剤の中心となる塗料のことをいう。ハイソリッド型塗料とは、塗料溶剤又は希釈溶剤としてVOCを含有するが、顔料等の不揮発分の含有率が高い塗料のことをいう。
発生源対策(塗装ブース)で4つの対策を示します。
発生源対策(塗装ブース)で4つの対策を示します。
施策 |
排出個所 |
対策内容 |
対策実施例 |
発生源対策 |
塗装ブース |
塗着効率向上 |
①低圧ガン |
使用量低減 |
②洗浄シンナー使用量低減・回収 |
||
低VOC塗料の採用 |
③水性塗料の採用 |
||
④ハイソリッド塗料の採用 |
法規制と事業者の自主的取組とのベスト・ミックス手法により、VOCの排出抑制を実施します。
法による直接規制
・確実かつ公平に排出削減が可能→ばい煙発生施設対策等で実績
自主的取組
・事業者の創意工夫に基づき柔軟な対応が可能→有害大気汚染物質対策で実績
(出展:環境省ホームページ)
自主的取組対象施設
・補修塗装ブース(排気ファン風量(定格)が10万㎥/時以上は規制対象施設になります)
*規制対象施設の場合でも自主的取組み内容は同じです。
自主的取組対象資材
・補修用塗料(下地から上塗りまでの塗料でプラサフ、硬化剤、パテを含む)
・シンナー
自主的取組内容
1.補修ブース内で使用される塗料・溶剤の年間使用量及び大気への排出量を各都道府県の車体整備協同組合を経由して日車協連に対して年1回必らず報告する。
2.2010年までにVOCの排出量を2000年の数値基準で30%を削減する。
取組をするためのVOCの使用量、排出量の計算方法
上記の取組を始めるにあたり、自社のVOCの使用量、排出量の計算する必要があります。
1.塗料等の購入量と在庫量を調べ、下記の算式にあてはめます。
使用量1=(塗料購入量-年度末在庫量+前年度在庫量)×(1-固形分率)
使用量2=(パテ購入量-年度末在庫量+前年度在庫量)×(1-固形分率)
使用量3=シンナー購入量-年度末在庫量+前年度在庫量
年間VOC使用量=使用量1+2+3
2.続いて同様に排出量を計算します。
排出量1=(塗料購入量-年度末在庫量+前年度在庫量-廃塗料)×(1-固形分率)
排出量2=(パテ購入量-年度末在庫量+前年度在庫量-廃棄量)×(1-固形分率)
排出量3=シンナー購入量-年度末在庫量+前年度在庫量-廃シンナー
年間VOC排出量=排出量1+2+3
自社チェックシート VOCの使用量と排出量を算定してみましょう。
1.VOCの使用量の算出方法例
クリヤー (購入量-年度末在庫量+前年度在庫量)×(1-0.4) = ・・①
カラーベース(購入量-年度末在庫量+前年度在庫量)×(1-0.25)= ・・②
プラサフ (購入量-年度末在庫量+前年度在庫量)×(1-0.65) = ・・③
硬化剤 (購入量-年度末在庫量+前年度在庫量)×(1-0.45) = ・・④
※上塗り・中塗り・下塗りを含む
パテ (購入量-年度末在庫量+前年度在庫量)×(1-0.94) = ・・⑤
シンナー (購入量-年度末在庫量+前年度在庫量) = ・・⑥
年間のVOC使用量
①+②+③+④+⑤+⑥ = kg
2.VOC排出量の算出方法例
(①+②+③+④+⑤-廃塗料中の溶剤量)×0.95 = ・・⑦
シンナー (購入量-年度末在庫量+前年度在庫量-廃シンナー) = ・・⑧
年間のVOC排出量
⑦+⑧ = kg
* 1・ ・ ・ 0.95は塗料使用後の塗料缶中の残りを5%(塗料に付着して廃棄物になると仮定した場合
業界全体で削減目標を達成するために、上記で算出したVOCの年間排出量及び使用量を削減するための取組として
1.使用材料のロスを少なくして、使用量を削減する。
2.低圧ガンの使用により、付着率を向上させることが可能。
3.VOCの含有量の少ない材料に転換する。
1)ハイソリッド塗料及び水性塗料に切り替えた場合、VOCの排出量を削減することが可能。