2011.10.12
今日は、23年8月9日、8月17日に登場した、私の地元の偉人である渋澤栄一翁の子孫である渋澤健氏のメールマガジン「シブサワ・レター」を紹介します。
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私の祖父の祖父にあたる渋沢栄一から素晴らしい遺産を受け継いでいた現実に、
初めて気づいたのは10年前のことでした。およそ500社の会社設立などに関与
し、「日本の資本主義の父」と云われる人物ですから、その遺産は相当なものと
ご想像が膨らむかもしれません。ただ、「渋沢栄一の五代目」というラベルが世
間から貼られている私について、多くの方々が最も誤解されているのは、「お金
持ち」というイメージです。
栄一は、子孫に多大な金銭的・物質的財産を残すことなく、また、栄一の後を継
いだ世代が残された財産を殖やすこともありませんでした。父が青年のときに栄
一の三人目の男孫であった私の祖父は亡くなっていますし、お陰さまで食べるこ
とに困ったことはありませんが、「銀のスプーン」をくわえて育ったわけではな
いのです。
栄一については、子供の頃に本などを通じて知りましたが、小学二年から大学卒
業までアメリカで育ち、社会人経験のほとんどを外資系企業で積んだ私は、「渋
沢栄一」について特別な意識を抱いて生活をしていたわけでもありませんでし
た。しかし、2001年に独立して事業を興そうと思い立ったのがきっかけとなり、
「500社をつくった」栄一の素晴らしい遺産の存在に気づくことができたので
す。
その遺産とは、「言葉」でした。父の本棚でほこりをかぶっていた「渋沢栄一伝
記史料」という本編58巻、別巻10巻の大作
(http://www.shibusawa.or.jp/eiichi/biography.html)を取り出してみると、
その頁には曾々お爺さまの言葉の数々が残されていたのです。それらの言葉に触
れることによって、当時の自分に潜んでいたものが動き出し、それまでのキャリ
アの進路から大きく舵を切ることとなりました。インベストメントバンクやヘッ
ジファンドなどの世界から、私が現在取り組んでいるコモンズ投信、「論語と算
盤」経営塾、財界や社会起業家などの様々な活動への転換は、栄一の言葉に触れ
なければ実現することはなかったでしょう。
もちろん、金銭的・物質的な財産づくりに励むのは大切なことです。ただ、仮に
財産づくりに成功したとしても、その財産を目当てに税金が圧し掛かってきま
す。あるいは、甘い蜜に誘われて、様々な思惑を持った人たちが寄り集まってき
ます。そのため、築いた大切な財産を守ろうとすると思考が閉鎖的になり、結局
せっかくの富が社会に循環することなく停滞してしまいます。
一方、言葉には税金がかかりません。また、いい言葉は共感する人たちを集めら
れる力を秘めています。そして、金銭的・物質的の財産のように、減ったり、失
敗をして無くなったりすることもないのです。孔子、孫子や老子という中国古典
やソクラテス、プラトン、アリストテレスという古代ギリシアの哲学が2400~
500年ぐらいの時代を経て残っていることを考えると、いい言葉とは人間社会の
共有財産となり、文明より永く続くものなのです。
自分の50年の人生で出会った「いい言葉」は何かと考えたところ、真っ先に浮か
んできたのがマーティン・ルーサー・キングの I have a dream 【私には夢が
ある】でした。1963年の8月、非暴力主義でアフリカ系アメリカ人公民権運動を
指導したキング牧師が34歳のときにおよそ20万人の民衆に向けて訴えた名演説で
す。
1964年に最年少でノベール平和賞を受賞したのは35歳のとき。そして1968年に一
発の弾丸によって命が奪われたのは39歳のときでした。そのキング牧師の名演説
をYou Tubeで検索し、最初から最後まで初めて聞いてみました。やはり、すごい
です。特に最後の数分間は、自分の中から押さえきれない感動が込み上がってき
ました。命が奪われても、言葉はしっかりと生き続けているのです。いろいろな
課題が積み上がっているアメリカ社会ですが、キング牧師の言葉を通じて世界に
訴えた夢は、黒人ハーフの大統領が誕生するなど現実のものとなりました。
I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.
心からの真の言葉で訴える夢が現実となるには、一見、無謀なチャレンジが不可
欠です。何かがきっかけで「こころのスイッチ」が入り、従来の生活を取り囲む
「枠」を超えた「普通の主婦」や「普通のサラリーマン」。このようなチャレン
ジャーたちに、今月頭に開催した【第三回コモンズ社会起業家フォーラム】にス
ピーカーとして登壇していただきました。このフォーラムに登壇していただいた
社会起業家とは、NPOや株式会社という組織形態の枠組みを問わず、社会変革を
誰かにやってもらうのを待つことなく、自ら立ち上がって社会的事業を興してい
る先導者です。そして、彼らにお願いしたのは、パワーポイントや配布資料を使
用せずに、自分の言葉だけで、自分の想いや夢を7分にまとめて、会場に訴える
ことでした。
言葉に集中できた会場は、真剣な眼差しで耳を傾けてくださいました。私は、高
い意識を持って参加した大勢の来場者に「貴方の言葉は何ですか」と問いかけま
した。ある小学6年生は、このように答えてくれました。「大人の夢っておもし
ろい」。次世代のために、是非、いい言葉を通じて、おもしろい夢を多いに語り
ましょう
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私も全国の皆さんに夢を持てる言葉を発信していきたいと思いました。