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年頭所感 国土交通省 多田自動車整備課長より

2024.01.04

令和6年 年頭所感

 新年、あけましておめでとうございます。
 昨年を振り返りますと、新型コロナウイルス感染症が5 類に移行し、経済活動も活気を取り戻しつつありましたが、ウクライナ情勢等に伴う物価の高騰も重なり、社会経済や国民生活が引き続き影響を受けた一年でした。
 このような状況下でも、自家用車等の整備により国民の生活基盤を維持するため、献身的に尊い使命と責任を果たしていただいている自動車整備業に携わる皆様に、心から敬意を表するとともに感謝を申し上げます。 
 国土交通省としましては、本年も、確実な点検整備を通じて、安全・安心で環境にやさしい自動車社会に貢献できるよう、自動運転技術など先進技術への対応や人材不足といった課題の解決に向けて取り組んでまいります。昨年同様、関係者の皆様にはご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

【先進技術への対応】
 今や、国産メーカーの製造する乗用車の9割以上に衝突被害軽減ブレーキが搭載されています。このような先進技術を搭載した自動車について、全国のユーザーが安心して整備を依頼できる環境を整えるため、これらの整備を行う際に認証取得を義務付ける特定整備制度を令和2年4月から施行し、本年3月に適用猶予期間が終了いたします。先進技術については、今まで以上に予防的な点検整備が重要になること等を踏まえると、出来るだけ多くの皆様に先進技術を搭載した自動車の整備に携わっていただきたいと考えており、制度の円滑な実施に向けて、認証の早期取得など、ご協力をお願いいたします。
また、本年10月以降の継続検査において車載式故障診断装置を活用した自動車検査(OBD検査)を開始することとしております。OBD検査が円滑に開始できるよう、昨年10月から開始しているプレ運用の状況も踏まえつつ、引き続き、業界の皆様のご意見をお伺いしながら、運用の詳細の検討等を進めてまいります。
【人材不足への対応・生産性の向上】
 厚生労働省の「職業安定業務統計」によると、自動車整備要員の有効求人倍率は、令和4年度には4.72に達しています。整備人材の不足は、整備事業の基盤を揺るがすものであり、早急に効果的な対策を講じる必要があります。
 国土交通省としましては、有識者や業界関係者からなる「自動車整備の高度化に対応する人材確保に係る検討WGWG」において人材の募集、人材の定着、人材の育成の3つの観点から対策を検討し、昨年3月に、人材確保対策をとりまとめました。本対策も踏まえて、自動車関係団体からなる「自動車整備人材確保・育成推進協議会」と協力し、様々な取り組みを行っています。特に、昨年は、高校生等を対象とした自動車整備事業における仕事体験事業や「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」における整備士体験ブースの出展を初めて実施するとともに、高校訪問等による自動車整備事業のアピール、ポスター等による女性や若者の整備士に対するイメージの向上、SNSを活用した情報発信など、多くの方に興味を持っていただくための取組も進めました。さらに、雇用側である整備事業者の皆様のご理解・ご協力が必要であることから、各地域で事業者向けの人材確保セミナーも開催しています。今後もこうした取り組みを通じて、自動車整備人材の確保に努めてまいりますので、引き続きご協力をお願いいたします。
 また、特定技能制度においては、昨年6月の閣議決定により特定技能2号について、自動車整備分野が追加されました。これまで上限5年であった特定技能外国人の在留期間に制限がなくなり、整備事業者においては、長期雇用も前提に外国人材の確保や育成を進めることが可能となるなど、自動車整備分野の人材不足の解消につがるものと期待しております。今後も、整備事業者の皆様の意見を伺いながら、技能実習制度も含めた外国人受け入れについて適切に対応していきたいと考えております。 
 一方、人材不足に対応するためには、整備事業者の皆様が生産性の向上に取り組むことも重要だと考えております。本年1月から、軽自動車についてもICICタグを搭載した電子車検証の導入されることにより、車検証更新手続きの電子化・効率化が図られ、事業者の皆様の生産性も更に向上することが期待されます。申請者の皆様の利便性をより一層向上させるため、申請から文書管理までの一貫したデジタル化など、自動車検査登録手続きの窓口業務フローの見直しも引き続き進めてまいります。
また、平成28年7月に中小企業等経営強化法に基づき、整備事業者が利用しやすい経営指標を規定した事業分野別指針を策定するとともに、「経営力向上計画」の認定を開始し、現在までに約3,600件の認定をしております。
また、令和3年7月には、「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」に伴う中小企業等経営強化法の改正により、認定対象者の拡大やM&Aも「経営力向上計画」の対象とすることの明確化などが行われました。本認定を受けると、法人税や所得税の特別控除や各種金融支援が受けられますので、本制度をはじめとした各種支援策を有効に活用していただ
きたいと思います。
【点検整備の推進】
自動車ユーザーに適切な点検整備の必要性を理解して頂くことは重要であり、昨年も全国で、業界の皆様と協力の上で、自動車点検整備推進運動を実施しました。今年も引き続き定期点検整備の確実な実施を求めてまいります。
 近年、自動車技術の高度化がめざましく進展していく中、自動運転技術や電動車の普及が進むとともに、車載式故障診断装置(OBD)が搭載される車両が増加していることを踏まえ、電動式駐車ブレーキ機構やタイヤ空気圧監視装置を装備した車両については昨年7月からOBDを活用した点検を可能とするなどの点検項目の見直しを行いました。これにより、整備士の作業負担の軽減にもつながるものと考えております。
また、タイヤ脱着作業不備や増し締め等の保守管理不備による大型車の車輪脱落事故や、整備不良による車両火災事故の防止も重要な課題です。特に、大型車の車輪脱落事故については、令和4年度の発生件数が140件にのぼり、引き続き多くの事故が発生していることから、大型車の使用者に対して冬用タイヤの早期交換を呼びかけるなど、冬用タイヤ交換作業平準化の推進等の車輪脱落事故防止キャンペーンを関係団体の皆様とともに実施し、重点的な取組を推進しているところです。また、整備管理者権限の明確化や整備管理者に対する指導強化を行うべく、自動車運送事業者及び整備管理者に対する行政処分等を昨年10月より導入しました。
 これらの事故を撲滅するため、大型車ユーザー等の作業者に対して確実な作業や保守管理の実施を呼びかける周知・啓発活動の実施など、引き続き自動車の保守管理意識の高揚を図ってまいります。
【不適切な事案への対応】
国の認証を受けないで「特定整備」を違法に行う未認証事業者が存在し、不適切な整備作業が行われた事例や、実際には整備を行っていないにもかかわらず、行ったように装う事例もあります。このような未認証事業者は安全上の問題があることから、ユーザーへの啓発や未認証工場への対応を引き続き実施してまいります。
さらに、車検切れ車両の運行は、安全上の問題があるほか、自賠責保険が切れている可能性も高いことから、国土交通省では、平成29年度より、可搬式の「ナンバー自動読取装置」を導入した街頭検査を実施しております。昨年度は、当該装置で捕捉した車検切れ運行車両73台のドライバーに対し、直接指導を行いました。今後も当該装置を活用した街頭検査の実施回数を増加するなど、更なる車検切れ運行車両の排除に努めてまいります。
 昨年は、中古自動車販売店の自動車整備工場による社会的問題となる悪質な法令違反行為事案が発覚しました。点検整備及び車検制度は、自動車の安全・環境性能を適切に維持するために極めて重要な制度であり、この様な法令違反があったことは極めて遺憾です。国土交通省としましては、指定自動車整備事業の指定を取り消す等厳正に対処しているところです。このような事態が再発することがないよう、各種研修等における指導や的確な監査の実施など、徹底的に取り組んでまいります。関係者の皆様におかれましては、国の認証を受けた特定整備事業、また、国の検査を代行する指定整備事業の社会的責務の重さと法令順守の重要性を改めてご確認頂きたいと思います。
 結びになりますが、これらの課題を解決していくため、引き続き自動車整備業界をはじめとした関係者の皆様のご理解とご協力をお願い申し上げるとともに、皆様の益々のご健勝とご活躍をお祈りいたしまして、新年の挨拶とさせて頂きます。

国土交通省物流・自動車局
自動車整備課長 多田 善隆